ADHDの治療薬について教えてください。
ADHDは主に不注意、多動性、衝動性の症状が特徴的な神経発達障害であり、治療には薬物療法と併せて行動療法や心理療法が用いられます。
ここでは、ADHD治療薬の種類、作用機序、効果、副作用についてさらに詳しく解説します。
1. 中枢神経刺激薬
中枢神経刺激薬は、ADHD治療において最も長い歴史を持ち、科学的根拠に基づいて効果が確認されている薬剤です。ADHDの脳機能では、ドーパミンやノルアドレナリンの不足や機能不全が考えられており、これらを補うことで脳内の情報伝達を改善します。
代表的な薬剤と特徴
メチルフェニデート(リタリン、コンサータ)
- 作用機序:
メチルフェニデートは、ドーパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。これにより、シナプス間隙における神経伝達物質の濃度が高まり、注意力や集中力が向上します。特に前頭前野や線条体の機能が強化され、行動の制御やタスク遂行能力が改善されます。 - 特徴:
- 即効性があり、服用後1時間程度で効果が現れる。
- コンサータは徐放性製剤であり、効果が長時間(約12時間)持続するため、1日1回の服用で済むことが多い。
- リタリンは即効性が高い一方で、持続時間が短いため、1日に数回服用する必要がある。
- 副作用:
- 食欲低下(特に昼食時)
- 不眠症
- 頭痛や腹痛
- 動悸や血圧の上昇
- 長期使用による体重減少や成長遅延の可能性
2. 非刺激薬
非刺激薬は、依存性や乱用のリスクが低い点が特徴です。刺激薬が効果不十分な場合や、副作用が強い場合、また依存症のリスクが懸念される患者に処方されます。
代表的な薬剤と特徴
2.1 アトモキセチン(ストラテラ)
- 作用機序:
アトモキセチンは「選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)」に分類されます。シナプス間隙におけるノルアドレナリンの濃度を高め、前頭前野の機能を改善することで、注意力や集中力を向上させます。 - 特徴:
- 効果の発現には2~4週間かかることが多い。
- 衝動性や多動性の改善にも効果が見込まれる。
- 持続的に作用するため、1日1回~2回の服用が可能。
- 副作用:
- 吐き気、食欲不振
- 頭痛、眠気
- めまいや血圧上昇
- 思春期の子どもでは感情の不安定さや抑うつが見られることがあるため注意が必要です。
2.2 グアンファシン(インチュニブ)
- 作用機序:
グアンファシンは「α2Aアドレナリン受容体作動薬」であり、前頭前野の神経伝達を調整し、ADHD症状を改善します。 - 特徴:
- 非刺激薬であり、眠気を伴うことがあるため、特に衝動性や多動性が強いADHD患者に適しています。
- 効果が比較的穏やかで、睡眠障害のある患者にも有効な場合がある。
- 副作用:
- 眠気、倦怠感
- 低血圧や立ちくらみ
- 口渇
3. その他の補助的な薬剤
ADHDに対して単独ではなく、症状に応じて補助的に使われる薬剤もあります。
抗うつ薬
- SSRIやSNRIなどの抗うつ薬は、不安症やうつ症状を伴うADHD患者に用いられることがあります。これにより、気分の安定や不安の軽減が期待されます。
- 例: フルオキセチン(SSRI)、デュロキセチン(SNRI)
気分安定薬
- 強い衝動性や攻撃性がある場合、気分安定薬(リチウムやバルプロ酸)が補助的に使用されることがあります。
4. 薬剤選択の考え方
ADHDの薬剤治療では、以下の要素を考慮しながら適切な薬剤が選択されます。
- 年齢や体質: 幼児、学童期、成人それぞれに適した薬剤が選ばれます。
- 症状の重さ: 不注意が主症状なのか、多動性・衝動性が強いのかによっても選択肢が異なります。
- 副作用の耐性: 食欲低下、不眠、血圧の変化など、副作用が許容範囲内かを確認します。
- 依存リスク: 刺激薬は依存や乱用のリスクがあるため、患者の生活背景も考慮されます。
まとめ
ADHD治療薬は、効果の速さや持続時間、依存リスク、副作用の程度によって使い分けられます。
中枢神経刺激薬(メチルフェニデート、アンフェタミン)は即効性があり効果的ですが、非刺激薬(アトモキセチン、グアンファシン)は依存リスクが低く、長期的な治療に適しています。
治療薬の選択や調整は、医師と相談しながら個々の症状やライフスタイルに合わせて行うことが重要です。
※当院では中枢神経刺激薬は処方しておりません。