ADHDの検査のASRSについて教えてください。
1. ASRSの概要
ASRSとは?
ASRS(Adult ADHD Self-Report Scale:成人ADHD自己報告尺度)は、成人における注意欠陥・多動性障害(ADHD) のスクリーニングおよび症状の評価のために開発された自己評価式の質問紙です。主に成人ADHDの疑いがある場合に、日常生活での症状や行動を把握するために用いられます。
成人のADHD は、子どもの頃に発症するADHDの症状が持続し、成人期まで残るものです。ADHDの診断基準や症状は、従来は子どもを対象にしていましたが、最近では成人のADHDが注目されるようになり、診断や治療が重要視されています。
ASRSは、以下の特徴を持っています:
- 開発:世界保健機関(WHO)とハーバード大学の専門家チームが共同で作成。
- 基準:DSM-IV(現DSM-5)基準に基づいており、成人ADHD症状の評価に特化している。
- 簡便性:短時間で記入できる自己評価ツールで、日常生活における症状の影響を明確にします。
ASRSの目的
ASRSの主な目的は、以下の通りです:
- 成人ADHDの症状の有無を確認すること
- ADHDの可能性を早期にスクリーニングすること
- 専門医による診断や治療へと繋げるための初期ステップとして使用すること
ADHDは「注意欠如」「多動性」「衝動性」という3つの主要症状を持ち、成人においては、日常の業務や人間関係、生活の質に大きな影響を与えることがあります。ASRSはその影響を自己評価し、ADHDの可能性を客観的に把握する手助けをします。
2. ASRSの構成と質問内容
ASRSは、合計18項目から構成され、パートAとパートBに分かれています。
パートA(6項目)
パートAは、ADHD診断基準の中でも特に感度が高い6つの質問で構成されており、日常生活の中で最も問題になりやすい症状について評価します。
質問例:
- 集中が続かないことが多いか?
- 例:「細かい作業中や読書中に気が散り、集中が途切れてしまうことがあるか?」
- 作業やタスクを最後まで完了することが難しいか?
- 例:「仕事や家事で、始めたことを途中で放置してしまうことが多いか?」
- 物忘れが頻繁に起こるか?
- 例:「予定や約束を忘れたり、物をどこに置いたか忘れることがあるか?」
- 計画や整理整頓が苦手か?
- 例:「仕事や日常生活の予定や計画をうまく立てられないことがあるか?」
- 衝動的に行動してしまうことがあるか?
- 例:「他人の会話に割り込んだり、衝動的に発言してしまうことがあるか?」
- 落ち着きがなく、じっとしていられないことが多いか?
- 例:「座っていてもソワソワしたり、手足を動かしてしまうことが多いか?」
パートB(12項目)
パートBは、パートAの6項目を補完する内容で、ADHDの症状をさらに広範囲にカバーします。
主な評価項目:
- 注意力の持続困難さ
- 多動性やそわそわ感
- 衝動性(思いつきで行動してしまう)
- 計画や時間管理の困難さ
- 会話の中断や注意散漫
- 座っていることや静かに過ごすことが難しい
これらの質問により、ADHDが日常生活のどの側面にどのような影響を与えているのかを把握します。
3. 採点方法と結果の解釈
ASRSでは、各質問に対して以下の5段階の選択肢から回答します:
- 0点:全くない
- 1点:時々ある
- 2点:しばしばある
- 3点:非常にしばしばある
採点のポイント
- パートAの6項目のうち、4つ以上が「2点(しばしばある)」または「3点(非常にしばしばある)」であれば、ADHDの可能性が高いとされます。
- パートBは補足的な評価として使用され、より詳しい症状の把握が可能です。
4. ASRSの活用方法と注意点
ASRSは非常に有用なスクリーニングツールですが、以下の点に注意が必要です。
-
自己評価の限界
自己申告に基づくため、症状の認識度や回答のバイアスによって結果が変わることがあります。 -
診断の確定には専門医の評価が必要
ASRSだけでADHDを確定診断することはできません。正式な診断には、精神科医や臨床心理士による面接や他の心理検査が必要です。 -
他の精神疾患との鑑別
うつ病、不安障害、双極性障害などの他の精神疾患でもASRSのスコアが高くなることがあります。専門医による鑑別が重要です。
5. ASRSの利点と限界
利点:
- 短時間で簡単に記入できるため、負担が少ない。
- ADHDの初期評価やスクリーニングとして感度が高い。
- 自己評価を通じて症状の認識が進むため、治療や支援に繋がりやすい。
限界:
- 客観的な評価ではなく、あくまで自己申告に依存する。
- ADHD以外の要因(ストレス、疲労、他の精神疾患)が結果に影響することがある。
6. ASRS後のステップ
ASRSでADHDの可能性が示唆された場合、次のステップとして以下が推奨されます:
-
専門医による診断面接
専門医がDSM-5基準に基づいて診断を行います。 -
追加の心理検査
他の評価ツール(WAIS、Conners成人ADHD評価スケールなど)を用いる場合もあります。 -
治療の検討
- 薬物療法(中枢神経刺激薬、非刺激薬)
- 行動療法や認知行動療法(CBT)
まとめ
ASRSは成人ADHDを早期にスクリーニングするための非常に有用なツールですが、自己評価であるため、過大評価や過小評価の可能性があることに注意が必要です。
ADHDの症状が疑われる場合は、ASRSの結果を基に専門医の評価を受け、適切な診断と治療に進むことが重要です。