アサーション(assertion)とは、自己表現やコミュニケーションの一つの方法で、自分の意見や感情を正直かつ直接的に相手に伝えるスキルです。
アサーションは、一般的に自分の気持ちや意見を「率直に、他者を尊重しながら伝える」ことを重視し、対話が円滑に進むようにサポートします。その背景には、1970年代にアメリカで精神科医や心理学者がこの手法の有効性に着目し、自己主張と人間関係の向上を目的として発展させた経緯があります。
アサーションの成り立ちと歴史
アサーションは心理学や行動科学の分野で発展してきました。1950年代から1960年代にかけて、アメリカの心理学者たちは、特に自己表現が苦手な人々や、自己主張が過度で人間関係がこじれやすい人々に対して、「アサーティブ(assertive)」なコミュニケーションが効果的であることを発見しました。アサーションは、自己表現の方法として、受動的でも攻撃的でもなく、中立的でありつつも自信に満ちたアプローチを目指します。こうした背景から、アサーションは「自分を尊重しながら相手を尊重する」という姿勢を基礎にしており、相互の理解と信頼を築く方法として注目されるようになりました。
アサーションの効能
アサーションの利点は、自己主張をしつつも相手の感情を傷つけないことで、信頼関係の構築に役立つことです。以下はアサーションの主な効能です。
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自己表現の向上
アサーションを使うことで、自分の本音を効果的に表現できるようになります。率直で明確な表現を行うことで、自分のニーズが伝わりやすくなり、誤解や不安が減ります。 -
人間関係の改善
自分と他者の意見や感情を尊重しながら伝えることで、双方の信頼が深まり、関係が良好になります。感情の抑圧や暴言が少なくなり、互いによりポジティブなコミュニケーションが可能です。 -
ストレスの軽減
自分の思いや意見を率直に伝えることで、感情を抑えるストレスが軽減されます。また、建設的なコミュニケーションができるため、対人関係におけるストレスや不安も軽くなります。 -
自己肯定感の向上
アサーションを用いて自己表現を行うことで、「自分の感情や意見を大切にしている」という自己認識が強まり、自己肯定感が向上します。これにより、自分の意見や価値を認めやすくなります。
アサーションの具体的な実践方法
アサーションには、主に「I(アイ)メッセージ」を用いることが推奨されます。これにより、相手を責めるのではなく、自分の感情や考えを主体的に表現することができます。以下に、実際のステップを紹介します。
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状況を明確にする
まず、何が問題なのか、どのような状況において自分が感情を持ったのかを整理しましょう。例えば、「会議で自分の意見が無視されたと感じた」といった状況認識をします。 -
自分の感情を伝える
次に、自分が感じている具体的な感情を率直に伝えます。ここで「I(アイ)メッセージ」を使い、「私が〇〇と感じた」といった表現にします。例えば、「私は自分の意見が無視されたと感じて少し落ち込みました」という表現です。 -
相手に対する希望を伝える
最後に、今後どのように対応してほしいのか、自分の希望を伝えます。たとえば、「今後は意見をもう少し聞いていただけると嬉しいです」というように、具体的で前向きな要望を伝えます。この希望は命令口調ではなく、あくまで相手に協力を依頼する形で伝えることが重要です。
アサーションの注意点
アサーションを実践する際には、以下の点に注意しましょう。
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感情のコントロール
感情的になりすぎず、冷静に自分の感情や意見を伝えるよう心がけます。興奮した状態では相手に誤解を与える可能性が高まります。 -
相手の反応を受け止める
自分の意見を率直に伝えることで、相手もまた自己主張するかもしれません。相手の意見や感情も受け入れ、建設的な対話を心がけます。 -
タイミングを選ぶ
すぐにアサーションを行うのではなく、適切なタイミングで行うことが重要です。冷静に相手が受け入れやすい状況でアプローチすることで、効果がより高まります。
アサーションの実践例
例えば、職場で自分の意見が聞き入れられなかった場合のアサーションの例を考えてみましょう。
- 状況認識:「今の会議で、自分が提案した内容がすぐに話題から外れてしまったと感じた。」
- 感情表現:「私は、意見を真剣に聞いてもらえなかったように感じて少し寂しかったです。」
- 希望の表明:「もし可能であれば、今後少しでも意見を検討いただけると嬉しいです。」
このようにアサーションを実践することで、自分の感情を尊重しつつ、相手に負担をかけない形で意見を伝えることができます。アサーションは日常生活でも職場でも役立つスキルであり、繰り返し実践することでスムーズなコミュニケーションが取れるようになります。